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新潟家庭裁判所 平成5年(少ロ)1号 決定

本人 S・N(昭49.7.6生)

主文

本人に対し、金5万5000円を交付する。

理由

1  当裁判所は、平成5年9月17日、本人に対する平成5年(少)第939号暴力行為等処罰に関する法律違反保護事件において、送致された犯罪事実は認められないけれども、送致事実と同一性の認められる範囲内でぐ犯事実が認定できるとした上で、本人を保護処分に付さない(保護的措置)旨の決定をした。同事件の記録によれば、本人は上記送致事実と同一の被疑事件に基づき平成5年6月28日逮捕され、引き続き同年7月8日まで勾留され、同日上記保護事件が当裁判所に送致されるとともに監護措置決定を受け、同月23日に監護措置が取り消されるまで合計26日間その身柄を拘束されたことが認められる。

2  本人に対する補償の要否について検討すると、本人には、上記保護事件において認めたぐ犯事実を内容とする非行が認められ、その内容や要保護性の観点からすると、たとえ犯罪事実が認められなくともぐ犯事実を基礎に監護措置を取られる可能性が十分にあったことが認められる。したがって、少なくとも監護措置にかかる身柄の拘束が不当なものとは認められない。

そこで続いて、逮捕・勾留にかかる身柄の拘束部分について検討するに、〈1〉ぐ犯事実により少年を逮捕・勾留することは認められていないこと、〈2〉逮捕・勾留に伴う身柄の拘束が結果的に少年の保護の目的に資することが全くないとはいえないにしても、犯罪の捜査の必要から行われる逮捕・勾留と監護措置とは明らかに性格を異にすることからすると、本件のような場合に、少なくとも逮捕・勾留にかかる身柄の拘束が少年にとって理由のない不当な身柄拘束となることは否定できない。また、本人には、家庭裁判所の調査もしくは審判などを誤らせる目的で虚偽の自白をした等の少年の保護事件に係る補償に関する法律(以下「法」という。)3条各号に規定する事由は認められない。よって、逮捕・勾留による11日間の身柄の拘束については、法2条1項により補償をなすべきである。

3  次に、補償金額について検討すると、上記保護事件の記録その他の一件記録によれば、本人は上記逮捕当時家業である食堂のウエイトレスとして働き月収約18万円を得ていたこと、本人は今回初めて身柄の拘束を受けたもので、警察の代用監獄に収容され繰り返し取り調べを受けたことは精神的にも肉体的にも厳しく辛いものであったと推察されること、しかし、他方、本人には犯罪事実こそ認められないもののぐ犯事実が認められ逮捕当時の生活状況は社会的に見て芳しいものではなかったこと、その他上記記録により認められる諸般の事情を併せ考慮すると、本人に対しては一日5000円の割合による補償をするのが相当である。

4  よって、本人に対し、補償の対償となる逮捕・勾留にかかる11日間についての上記割合による補償金合計5万5000円を交付することとし、法5条1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木桂子)

〔参考〕 保護事件(新潟家 平5(少)939号暴力行為等処罰に関する法律違反保護事件 平5.9.17決定)

主文

この事件については、少年を保護処分に付さない。

理由

(非行事実)

少年は、暴走族「甲」(以下、「甲」という。)のリーダー格として活動しているものであるが、○○高校の二年生のA子(当時16歳)、B子(当時16歳)、C子(当時16歳)、D子(当時16歳)の4名が同高校内で甲の悪口を言いふらしているとの噂を聞きつけ、甲の構成員であるE子、F子らとともに、平成5年4月26日午後10時ころ、前記A子及びB子の両名を新潟県南蒲原郡○○村大字○○××番地×所在の自宅に呼び出して甲の悪口を言っていないかと詰問したり、同月30日午後4時ころには、前記呼び出しの際には悪口は言っていないと述べていたA子らが実際は悪口を言っていたらしいことを聞き、前記E子ら甲の構成員と、A子ら4名を呼び出して真偽を確かめようと話し合ったりしたほか、同年5月1日深夜には、前記E子らに暴行を受けた後自宅に帰っていたA子ら4名を呼び出して、○○村の山中に連れ込み、同所において、甲の構成員がオートバイの運転の練習をしている様子を半ば強制的に見せるなど、自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあるもので、このまま放置すれば将来暴行等の非行を犯すおそれが高いものである。

(適用法条)

少年法3条1項3号ニ

(理由)

一 本件送致事実の要旨は、「少年は、いわゆる暴走族「甲」の元締めとして活動しているものであるが、同暴走族の総長であるG子、構成員であるH子、I子、J子、F子、K子、L子、M子、N子と共謀の上、A子(当時16歳)、B子(当時16歳)、C子(当時16歳)、D子(当時16歳)が同暴走族の悪口を言っていることなどを聞き、仕返しをする目的で、平成5年5月1日午後7時20分ころから同日午後9時30分ころまでの間、新潟県南蒲原郡○○村大字○○××番地○○体育館裏手に同女らを呼び出し、同所において、同女らを一列に並ばせた上、『甲の悪口を言っただろう。タイマン張るか。』、『土下座して謝れ。』などと因縁をつけてその場に正座させ、前記F子において、前記A子の顔面を数回殴打し髪の毛を掴んで振り回すなどした上、前記B子の顔面を平手で数回殴打するなどし、更に、前記E子、K子、L子、M子、N子において、こもごも前記B子の顔面を平手で殴打するなどし、もって数人共同して暴行を加えた。」というものであり、少年は、実行行為には直接関与していないが、G子らと共謀して被害者らに暴行を加えたとして暴力行為等処罰に関する法律違反保護事件として送致されてきたものである。

二 しかし、当審判廷において、少年は、「確かに甲の後輩からA子ら被害者が甲の悪口を言っているという話を聞き、平成5年4月26日午後10時ころ、A子とB子を自宅に呼び出して悪口を言っていないかと尋ねたり、同月30日午後4時ころには、後輩たちから、A子たちが甲の悪口を言っているのは間違いなさそうだと聞き、A子たちをもう一度呼び出してみようという話をした。また、本件当日後輩たちがA子らを呼び出していることは知っていたが、まさか後輩たちが手を出し、こんなことをするとは思っていなかった。」と共謀関係を否認するので検討する。

三 一件記録によれば、少年は逮捕直後から一貫して仲間たちに暴行を行うよう指示した旨自白しており、J子やK子ら共犯者も少年から暴行を行うよう指図があった旨供述していることが認められる。そして、少年が、〈1〉甲の初代総長をしており、総長を後輩に譲った後も同暴走族の実質的なリーダーの地位にあったこと、〈2〉平成5年4月26日午後10時ころ、A子とB子の両名を自宅に呼び出して甲の悪口を言っていないかなどと問いただしていること、〈3〉同月30日午後4時ころには、後輩からA子たちが甲の悪口を言っているのは間違いなさそうだとの話を聞き、本件で実行行為を行った仲間たちとA子ら被害者を呼び出そうという話をしていること、〈4〉5月1日、仲間から、今夜A子らを○○村の体育館に呼び出すことにしたとの連絡が入るや少年自ら前記体育館に出向いていること、〈5〉同日深夜、既に帰宅していたA子らを呼び出し、○○村の山中に連れて行き、同所で甲の構成員がオートバイの運転の練習をしている様子を半ば強制的に見せていることなど、一件記録上明らかな事実に照らせば、少年と実行行為を行ったJ子ら共犯者との間に暴行を行うにつき共謀があったとする少年の捜査段階の自白やJ子ら共犯者の供述は一見信用性が高いように考えられる。

四 しかし、当審判廷において、少年は、「仲間にやれと指示したことはないが、仲間が暴力事件を起こした以上リーダーとして責任は取らなければならないと思った。「共謀」という言葉の意味はよくわからなかったが、自分としては当初警察官に対しやれと指示した覚えはないと述べたものの、全く聞き入れてもらえなかった。」旨供述しており、その供述態度等からしてことさらに虚偽の事実を述べている様子は窺われない。

五 そこで、更に検討するに、〈1〉そもそも本件は、○○高校内で、被害者らが甲の構成員と親しく付き合っていた少女を仲間外れにしたことなどに腹を立てた同高校2年生メンバーが中核になって行ったもので、被害者らの言動に神経を尖らせていたのは主に同高校2年生メンバーであること、〈2〉したがって、被害者の呼び出し等についても積極的に関与しているのは同高校2年生を中心としたメンバーであり、少年は呼び出し等についても全く関与していないこと、〈3〉前記のとおり、少年は、一旦現場にやってきながらも家業の手伝いをするために帰宅し、実際仕事に従事しており、実行行為には全く関与していないこと、〈4〉現場に集合したメンバーは、仕事が終わったらまた来ると言う少年のことなど全く意に介さず、被害者に因縁をつけて暴行を行った後解散していること、〈5〉したがって、少年が1日深夜に被害者らを呼び出したことと、現場に集合した甲のメンバーによる暴行との間には連続性が欠けていること、〈5〉少年から暴行を行うよう指示があった旨の共犯者の供述には変遷がある上、調書の記載内容からして少年の自白調書作成後に警察官の誘導に基づいて作成された疑いが強いこと等が認められる。これらの事実に照らせば、少年と現場に集合した甲のメンバーとの間に暴行を行うについて事前に共謀があったことを裏付ける前記の各証拠の信用性については合理的な疑いが残り、直ちに信用することはできない。

六 したがって、少年が暴力行為等処罰に関する法律違反保護事件を犯したと認めるに足りる証拠はない。しかしながら、少年が暴走族のリーダーとして本件で被害者となった少女らを呼び出して悪口を言っていないかなどと詰問したり、深夜に呼び出すなどしていることは、少年法3条1項3号ニのぐ犯事実に該当するもので、送致のあった犯罪事実とは重なりあって、これに包含される関係にあり、事実の同一性が認められるので、上記「非行事実」記載のぐ犯事実の範囲で非行を認めた。

なお、本件は、いわゆる「縮小認定」を行った場合であり、ぐ犯事実を認定するにあたり立件手続を取らずとも少年の防御の機会を不当に奪うことにはならないと考える。

七 暴走族を組織するなどして上記「非行事実」記載の非行を犯すに至った少年であるが、本件で身柄の拘束を受けたことなどにより、現在では内省を深め、暴走族を解散して真面目に家業の手伝いをしていること、両親も事件を契機にして今後は二度と間違いを犯すことがないよう少年を監督していく旨誓約していることなどの事情を考慮すると、現時点で、少年を保護処分に付する必要性は認められないので、少年法23条2項により主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木桂子)

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